ベテラン社員が企業に利益をもたらす3つの要素

ベテラン社員が企業に利益をもたらす3つの要素

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ベテラン社員が企業に利益をもたらす3つの要素
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Calendar30 10月 2018

アジアの大半で事業展開している企業は、この地域に特に顕著な、人口の高齢化の深刻な課題に直面している。まずアジアパシフィック全体がグローバルに見ても最も高齢化が進んでいる地域である上に、国によっては他よりも早くこの高齢の人材に関する問題にぶつかると予想される。企業は高齢の従業員をうまく活用する必要がある。テクノロジーの分野のように若い世代に人員が偏る分野は特にそうだろう。

先人の知恵がなければ、新しい世代が生まれるたびにすべてを一から始めなければならないだろう。子供達は自ら読み書きや靴紐の結び方、またはどうやってドアを開けるのかなどを学ばなければならなくなる。スポーツのルールがなくなり、車はひび割れた高速道路上で錆になる。幸いなことに、先人、つまり親や教師、指導者達が、後続の世代に生きるための知恵を与え、人生の困難においては先導し、そしてこの世界に意味を見出す。ベテラン社員はこういった恩恵、いやそれ以上のものを企業にもたらすのだ。

研究者によれば、生物学的には加齢によってエピソード記憶(事象の記憶)や作業のスピード(複雑なタスクの処理)は低下するが、同時に、加齢により意味記憶(基礎知識)や言語やスピーチスキル(会話能力)が上がるということも分かっている。事実、一般的に「流動性知能」(新たな問題を解決したり、決まった法則を見つける能力)は高齢の社員には欠けがちだが、「結晶性知能」(知識や経験から必要なスキルにアクセスする能力)は彼らの方がはるかに高いということも分かっている。また、高齢の社員は、感情の制御のキャパが広く、つまり、ストレスの多いもしくは緊張感の高い職場で難しい決定を下す時に、より落ち着いて合理的に(そしてそれゆえに費用対効果の高い)行動を取れるということも知られている。

感謝することが及ぼす力

年齢を重ねたベテラン社員は、人生とは儚いもので良好な健康状態とやりがいのある仕事が、あって当然のものでは決してないということを理解している。彼らは若い世代よりももっと仕事における充足感を望む。外部からの誘惑や影響に気を取られることなく集中することができる傾向にある。若い従業員は、特に景気が良い時には、しばしば他社の、給料や設備、職場環境がより良い機会に心を奪われる。彼らは仕事を辞め易いし、昇給への一番の近道は目の前の上司との交渉よりも転職だと信じがちだ。最近は、若い従業員にとっては2~3年たたずに次の仕事へ移ることはもはや当たり前になっている。この傾向は、雇用主にとっては恐ろしくコストのかかるものだ。

また、会社におけるベテラン社員は、組織づくりや知識の定着において大きな潜在能力を発揮する。2000年代初頭のベビーブーマーの大量引退の波の下では、多くの企業が彼らがいなくなることで起きた知識の空白に苦しめられた。ベテラン社員の知恵を保つことは、企業文化や知識の継承の鍵となる。定期的に起こる破壊と進化の環境においては特に重要な特性となるのだ。研究によれば、年齢を重ねた従業員は若い従業員を育成し指導することにも長けており、これは事業の継続や知識の空白問題を緩和する。この傾向は、特にエネルギー産業で明確に見受けられる。サウジ・アラムコは最近のアジアでの採用活動で、高齢の従業員が最新の技術を使っているイメージ戦略の下、リタイアした掘削のエキスパートをに相次いで採用しており、マレーシア沖に新たに入手したオフショアの製油所にそれらの人材を投入している。

年齢を重ねたベテラン社員は、自身のことや自分が仕事や雇用主に何を求めているのかも良く知っている。彼らは面談時に、自身が幸福になるための給料を得るための交渉に長け、どういったチャンスが自分のスキルや能力に一番合うのかという感覚も鋭い。彼らは、若い世代よりもはるかに社会的義務感を持った大人であり雇用主に一定の忠誠心をささげるが、これは、様々な関心事に優先順位をつけかねている若い世代には難しいだろう。雇用主にとっては、この安定感や幸福感が、職場の文化に非常に価値のある効果があるのだ。離職率の低下や生産性の向上、そして社員のやる気の向上につながる。ベテラン社員は、職場において自分の居場所や自分自身をまだ探している若い従業員に対する、完璧な指標なのだ。

多くの国で引退の年齢が上がっていることで、労働人口において現役の高齢の人材が増えてきているのは心強いことだ。結果的に世代をまたぐ労働人口は、雇用主だけでなくいずれは経済環境全体に恩恵をもたらすだろうし、社会保障への依存を減らすだろう。

価値観の継承

成功している企業というものはそれぞれ独自の価値観を持っている。VIPの顧客サービスを優先する企業もあれば、新しい技術の力を優先したり、もしくは環境を意識する企業もある。長い時の中では、企業が自分達の使命や価値観を見失って自社の過去を振り返り、将来のために新しい方向性を探すこともある。例えば、1997年、アップルは赤字に苦しんでいた。役員達は、会社の財政回復に乗り出すためには共同創立者であったスティーブ・ジョブズを再雇用するしかないと決定した。(マイクロソフトのWindows95が市場を席巻していたのだ。)スティーブ・ジョブズの、技術の破壊への理解や業界への反発そして滑らかで美しい製品への情熱が、アップルに過去の栄光を取り戻した。これにより、流線形の製品の新たな継承が世界に紹介され、それは今日の文化に大きな影響を与えている。

年齢を重ねたベテラン社員により、企業の価値観が継承される。革新や競争への絶え間ないプレッシャーは、時には企業を誤った方向へと押しやり、何百万というコストを無駄にさせることもある。外部からのプレッシャーにより、企業がその資産やブランド価値を損ないかねない製品や行いに傾いてしまいそうな時に、ベテラン社員は長い年月で自身に取り込んだ会社の価値観を示すことができる。考えてみてほしい。1955年にフォーチュン500を構成していた企業のうち2016年に残っていたのはたったの12%なのだ。もちろん、時間と技術が進むにつれてビジネスの状況も変化しているが、それでも確かに、多くの企業は自身の北極星を見失ったがために消えてしまった。高齢の従業員は、高齢の家族と同じように、過去と未来の懸け橋となれるのだ。

新たな競争力となるダイバーシティ

企業が競争をどうにかして勝ち抜こうと模索するうちに、彼らは多様な人材の持つ力に気づき始めている。最新のテクノロジーやビジネス戦略をもってしても、多様なグループの人々が問題解決のためにアイディアを出し合うことで生まれる純粋な力を引き出すことはできないのだ。異なる背景や経験を持ちテーブルに着いているブレインが多ければ多いほど、ユニークで革新的なアイディアを生み出すチャンスは大きくなる。そして、年齢を重ねた従業員がいないグループは真の多様性を持っているとは言えない。異なる文化、人種、性別、そして年齢の従業員が一緒に働くことで全く予想もしていない新しい何かを生み出す、そういったマジックを、優れたビジネスリーダー達は見てきている。ブランドや企業そのものをその産業の第一線に押し上げるほどの、何かを。

年齢を重ねた従業員は、多様性のある人材にとっての道標だ。ビジネスが失敗や困難に(遅かれ早かれ必ず)直面すれば、ベテラン社員は指導したり見通しを教えてくれる。企業の人材というものはコミュニティであり、このコミュニティには、地に足の着いた洞察力を持つ従業員が必要なのだ。好況も不況も、あらゆるタイプの経済の浮き沈みや産業の変革を生き抜いてきたベテラン社員が。また、ベテラン社員は単純に、若い社員よりも経験がある分人生についてよく知っている。若い従業員が仕事と家庭のバランスに悩んだり、業績に影響を与えるような他の問題にぶつかった時には、年齢を重ねた従業員に相談すればアドバイスをもらえる。この価値は、年間の予算には表れないが、企業が成功するかもしくはフォーチュン500のリストから消えるかを決定づけるだろう。

1 Cognitive Predictor and Age-Based Adverse Impact Among Business Executives, Klein et al. 2015
2 Carstensen, Fung, & Charles, 2003; Charles, Piazza, Luong, & Almeida, 2009

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