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世界規模で変わりゆく退職の姿

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世界規模で変わりゆく退職の姿
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Calendar2018/06/12

かつて就業者は65歳前後で引退し、年金、貯蓄、家族の支援を頼りに老後の生計を立てていました。しかし、より多くの人が健康を保ち長生きするようになった現在、60代半ばで退職することはもはや魅力あるものではなくなりました。多くの人が60代から70代に入っても仕事を続けるつもりでいます。単に働きたいからというよりは、お金が必要であるという理由のほうが現実的です。

マーサーの最近の調査「健康で、豊かに、賢く働く - 経済的安定のための新たな緊急課題」では、経済的安定に影響を与える要因と退職のあり方について考察しました。12カ国で実施した調査では、6つの年齢集団に属する7,000人の成人および600人の企業/政府幹部職員を対象としました。調査対象者の3分の2 (68%)以上が、従来の定年退職の年齢を超えても働き続けると思うと回答しています。

今日、働き方と「退職」は根本的に変わってきています。この変化に雇用主と従業員の両方が適応する必要があります。これは、アジアとラテンアメリカのような成長市場に特に当てはまります。急速に拡大しているこのような市場の中間層は、将来に対して楽観的です。しかし、新しく手に入れた質の高い生活を晩年も維持できるようにするツールが必要となります。

都市化

高齢者人口が都市化経済に直面する状況において、都市化の問題は、多世代の従業員および家族構成にも影響を及ぼします。例えば、伝統的に若年層が高齢者を支えている中国では、2030年までに総人口の60%が都市部に居住することが予想されており、都市化は中国の物理的および文化的な構造を形作っていくことになります。現在、中国の家庭では、労働力の移動が非常に困難であるうえ、住居費、交通費、食費が急騰する状況に直面しています。

ラテンアメリカも世界で最も急速な都市化が進む地域の一つです(都市化率はEU諸国が74%、東アジア/太平洋地域では50%)。国連ハビタット(国際連合人間居住計画)では、2050年までにラテンアメリカの都市に同地域の総人口の90%が集中すると予想しています。中国と同様に、ラテンアメリカもこれまで家族重視文化であったため、都市化が家族構成および労働力移動における変化やひずみを生み出す可能性があります[1]。

退職という概念からの脱却

今日、世界平均で人は退職後に15~20年生きると見込まれています。しっかりした計画を立てないと、私たちの多くは、貯蓄が底をつくことになるか、生活の質を落とすことを迫られることになります。こうした状況は、雇用主が提供する退職金制度が未整備であることが多く、また政府が提供する年金制度の持続性が危ぶまれる多くの成長経済市場においてより深刻化します。退職者1人に対する労働力人口の比率は、今後20年間で大幅に下がり、世界平均で現在の1:8から2050年までに1:4となります2

チリ、中国、ブラジルといった国々では、その半分の1:2 となります。このことは社会保障制度に極めて大きな負担をかけることになります。この負担は、多くの成長国における非公式労働者の割合に比例して増えます。一部の国では、非正規労働者が全体の50%を占めることがあります。こうした労働者は、社会保障制度や老齢年金制度において掛金の拠出や給付金受け取りに寄与することはないと思われます。このことは、個人だけでなく、マクロ経済にも大きな影響を及ぼすことになります3

年金支出の対GDP比率もまた成長市場で上昇傾向にあります。人口高齢化と相まって、政府の年金制度の持続可能性はさらに低下しています。例えば、イタリア、ギリシャ、ウクライナの年金支出の対GDP比率は最も高い約16%です。2000年に約10%だったことを考えると、年金支出がいかに急増しているかが分かります。ポルトガル、フランス、オーストリア、スロベニア、スペイン、フィンランドを含む、他の多くの欧州諸国も割合はかなり高くなっています(11%以上)。ちなみに、現在、米国の公的年金支出の対GDP比率は7%、日本とハンガリーは10%です4

急速に高齢化が進む社会において、企業は様々な従業員(一般に離職率が高いミレニアル世代から、経済的安定を求める非正規労働者やより長く働いて老後資金を確保できるよう健康維持を願う高齢労働者まで)のニーズを満たす制度を提供するにあたり、極めて柔軟に対応する必要があります。2010 年時点で、世界全域の65歳以上人口に占める東アジア/太平洋の成長地域の割合は36%です。2015年から2034年までの間に、東アジアの高齢者人口だけで5年毎に約22%増加すると予測されています5

高齢化および都市化の進む成長市場をうまく乗り切るために、雇用主は多世代にわたる労働力に対応できるよう準備する必要があります。就業者の高齢化が進み、引退せずに働き続ける人が増えています。さらに、より多くの高齢労働者が都市部に居住する傾向が高まるにつれ、労働力の移動や業界の選択肢は減ることになります。言うまでもなく、中間層および富裕層が都市部の不動産を取得することで生活費は上昇する一方となります。このことは個人が健康で長生きすることを妨げる要因になります。

仕事と退職に対して雇用主と従業員が異なった期待を抱くことは、双方にとって有益となる場合があります。経験豊富な高齢労働者は非常に貴重です。そうした高齢労働者に、より長く貢献してもらう方法を見出した雇用主は競争優位性を持つことができます。

異なる職務内容や労働時間で、さらに10年または20年(あるいは30年)働く機会が提供されれば、それだけ貯蓄や投資に充てることができる年数が増えることになります。どのようなキャリア人生を設計しても長期に渡って堅実な貯蓄プランを維持できるようにすることが理想です。そうすることで、休職する人、柔軟な勤務形態を選ぶ人、非正規市場で働く人もより良い退職後の人生を実現できるようになるかもしれません。

政策的観点から見た場合、引退年齢の引上げまたは廃止を検討する時が来ています。同様に、多くの国は従来の引退年齢を過ぎても働く人にインセンティブを与えることを検討する必要があります。例えばシンガポールのような経済成長を続ける一部の国は、そうしたインセンティブ制度の導入に成功しているものの、より長く働くことを奨励する社会年金制度は依然として多くありません。

1 出典: UN Habitat, 2012
2 United Nations Population Data, 2017
3 出典: World Bank, 2017
4 出典: OECD, 2015
5 出典: World Bank, 2015
6 出典: World Bank, 2015

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