リモートワークにおけるマネジメントリテラシー 

5月 27, 2020

2020年4月から5月にかけて、新型コロナ感染拡大の抑制対策として、リモートワークの活用は一気に増加した。この期間、多くの企業はリモートワークの対象範囲を拡大すべく、必要なITインフラの導入や強化、リモートワークに関する就業ルールの整備や運用の柔軟化を図っており、製造、物流、サービス提供の現場以外では、相当程度その対象は広がった。

6月以降「感染抑制を目的としたリモートワーク実施の必要性」は徐々に低くなると思われるが、現時点で中長期的なリモートワークに関する個々の企業のスタンスは大きく2つのグループに分かれているように見える。一つは、「これをきっかけに働き方を抜本的に変えることで、個人の自由度・自律度を高めるとともに企業としての生産性を高めていこう」という企業群。もう一つは、「対面で業務実施しないと生産性が下がるため、また、職種を超えた社内公平性を維持するため伝統的な働き方に戻ろう」とする企業群だ。

前者は今後リモートワークを通じて生産性を向上していくことが求められ、後者は生産性が問題となり以前の姿に戻ろうとしている。いずれのグループにおいても生産性が鍵になっている。ところで「生産性の向上を図るため」また「生産性低下を解決するため」には、何が最も大きな課題となるのだろう? 私は最も重要な解決すべき課題は、多くのホワイトカラー業務では、マネジメントリテラシーの向上であると考える。

日本では法律的な制約もあり、ホワイトカラーといえども業務管理は“時間”により行われることが多かった。物理的に近接した場所での業務遂行が前提となっていたことも併せて、マネージャーの仕事は、時間を含め部下の仕事ぶりを観察することであり、また、個々の社員は、上司の顔色を含め周囲の空気を把握して行動するのが通常であった。

この仕事の進め方の結果、日本企業の多くのマネージャーは、本来的にマネージャーに必要なリテラシーが鍛えられていないように思える。不足しているリテラシーとは、部下に的確な指示を出すために必須となる「タスク管理」や「必要なアウトプットや課題構造に関する仮説構築能力」だ。タスク管理や仮説構築能力は、企画系の業務、例えば、問題の特定と構造の分析、施策の立案、しくみの設計、予算立案・モニタリングに、もともと必要な重要なスキルであるが、これが鍛えられていないのだ。

例えば、営業企画部で営業マンの一人当たり受注額の改善を検討しているとしよう。
まず会議を行う。参加者は、部長、担当部長、課長、主任、担当の5人だ。会議で主に発言するのは、年長の部長と担当部長の2人だけだ。

「個々の営業スキルが低いのでは?」
「トレーニングが必要かもしれない」
「営業トップ(役員)は活動量が少ないと言っていた」

というような様々な意見が五月雨で述べられる。

その後、必ずしも具体的な方針が決まらないまま、会議に参加していた若年スタッフ(主任・担当)が、その場の空気(個人別の賛成度合い等)を勘案しながら、会議で述べられた意見をまとめ、上長に上申し、幾つかの指摘を受け、上長がOKするまで修正し続ける、というサイクルが回る。

これをリモート環境で行うことは難しい。個々人が独立した業務環境では、空気を読むことや役割分担が不明確なまま資料を作成することが難しいからだ。結果として生産性が低下し、若年スタッフの負担が増大する。
本来であれば、会議のリーダーが、意見を体系的に集約した上で、最終的なゴールや納期、そこに至るまでの課題に関する仮説を設定し、アプローチを決めた上でタスクブレークし、スケジュールを引く、その上で役割分担をするという風にすることが必要だ。

言葉で述べると簡単に思えるかもしれないが、やってみると意外に難しい。例えば、

「現状、我が社には管理会計に関する不満がトップからも各部署からも出ている。どうしたら良いか?」

という問が設定されたとしよう。自社でこのような話があった時に、問題・課題やその発生構造、改訂の方向性等につき、すぐに仮説がでてくるだろうか。また、どのようにアプローチしていくかを考え、タスクブレークを行うことができるだろうか? これができないと感じられる場合は、マネジメントリテラシーが不足している可能性がある。

情報が不十分なのでできない、という意見もあると思う。しかし、ビジネスの大半のシーンでは情報は十分ではなく、必要十分な情報を得てから業務指示するのでは間に合わない。情報が少ない中で仮説設定やタスクブレークすることが難しいのであれば、マネージャー業務を担うのは厳しく「価値を出していない管理職」と言われても仕方がない。

タスクブレークとアウトプット仮説が明確になると評価の仕方もかわる。今までの評価においては、定量指標の達成度を除けば、投入時間を含め全体的な仕事ぶりを抽象的にレーティングする傾向が強かったと思われるが、明確にタスクを任せ個人別にアウトプットが積み上がるようになれば、期末時点でより実力が明確になり、具体的な評価ができるようになる。リモートでのコラボレーションを促進するITツール(Slack等)の導入がされると、履歴が追いやすくなり、より効率的にアウプットの追跡と評価もできるようになるはずだ。

新型コロナの感染拡大が落ち着けば、多かれ少なかれ、Face to Faceの働き方に戻る部分はあるだろう。しかし、それによって今明らかになっている日本企業におけるマネージャーの弱点の克服、生産性向上の機会を潰してしまうのは惜しい。会社としては「より高い生産性を実現するため」に、個人としては「より自律的で自由なワークスタイルを獲得するため」に、是非マネジメントリテラシーの向上を図って頂きたい。

著者
白井 正人

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